▼神上かえで-私から離れてお歩きください。

双子みたいだね。似すぎてどっちかわかんない。

人から評されると私の腹の底で無数の虫たちがのたうち回る。

私の横で嬉しそうにもじりと体をくねらせた美子に誰にも分らないように気にはかけながら、うんざりとした視線を向けた。

この女、本当に質が悪い。内心そのようなことを毎日考えては美子に気取られないかヒヤヒヤしていた。この子は私限定で見透かすのがうまいから。

「最近、どんどん似てきちゃってね。間違われすぎて困ってるの」

美子は鎖骨の下まである髪を指に手癖で巻き付けながら、げらげら笑った。

私、そんな下卑た笑い方したことない。

完璧に私をコピーするのではなく、美子を少しだけ残して美子自信を愛されようとしてる。つまりは私の笑いは人を愉快にはさせないということだった。美子は私の代わりに人の評判をよく気にしてくれた。

そのやり方が一番私を複雑な気分にさせる。

「あをいとはずっと一緒なんだよ」

美子は私の仕草を再び真似ながら私の腕を取って力を入れた。笑え、という意味だろうか。あんたの笑顔がうさん臭すぎて別の笑顔になってきそうだよ。

「美子は私にべったりだよね。最初から」

ちょっと嫌な気持ちを入れてみた。本人じゃなくても察しが良かったら気づく程度に。私はもう限界だった。

「べったりだよ。当たり前じゃん。大好きだもん」

その大好きは一体どこに向けられた言葉なのか私はよくわかっていた。

「それにあをいのことは何でも知ってるんだ。知らないことなんてひっとつもないんだから」

知っているという言葉は私をいつまでも縛って自由を許さない言葉だ。

冬特有の乾燥でかさついた肌から余計に水分が奪われていく。

「私だってひみつの一つや二つくらいあるよ」

美子の手にほのかに力が宿ったのに気づく。

この女はひみつという言葉に弱いのだ。

「ひみつって、どんなひみつ?私が知らないひみつなの?」

「言わないからひみつって言うんでしょ」

私にも余裕が出てきた。美子をかわす余裕がやっと数年越しに。

いつもの美子ならなんとしても聞き出してくるところが大人しく自分の席へと戻っていった。

授業の直前に私の方へと向けた視線がなんだか危うくて、目をぼんやりとしか見れなかった。

私は果たして美子の元を離れて成功できるだろうか。

美子が私にくっついてくることも多かったが、私も時折美子に寄りかかることも少なくはなかった。都合の良い存在とも言える。

これからお互い一人にならなければ私たちは一生『ニコイチ』だろう。

 授業終わりに何気なしに数回話した程の女子に話しかけられた。内容もクラスメイトの域を超えることはなく、楽しいとは思えたが、これからもと思うほどではなかった。

 美子はその会話が終わったのを見計らって近づいてきた。

「あの子、あんなにしゃべれるんだね」

「え。しゃべるよ。普通だよ」

「ふうん。あの子、ぶすだよね」

美子の突然の発言に面食らってしまった。

今まで人を陰でさえも悪く言うことがないと認識していたのに、そんなにばっさりとどうしようもないことで言うなんて。

「ぶすは私たちと話す権利すらないんだよ」

そんな極論聞いたこともない。私たちってそれを思ってるのは美子だけだよ。私を含めないで。

「ぶすなんて思ったこともないよ。美子は自分が可愛いからそう思えるんでしょ」

「あをいがぶすに加担したの初めて見た」

その言い方にカチンときた。

ぶすって主観でしかないのに、自信満々に言えるのが不思議で仕方なく、言いようもないむず痒さを覚えた。

「ぶすぶすって、顔が全てなの。それで友達じゃなくなっちゃうの」

必死になりすぎて小さい子供のような口調になってしまう。

「全ても全てだよ。見るのも並ぶのも嫌なんだ。私は」

「やっぱり似てないね。私たち」

そう言い残して私は美子の見えない場所まで逃げた。正確には女子トイレの個室だった。ここまでくれば、流石に美子も分かるだろう。

私はしばらく頭を冷やしたかった。

ぶすという言葉を言ったこと自体にさえ罪悪感が生まれてしまってしんどかった。

私が言われたわけではないのに、心臓が鳴り止まない。

やっぱり私たちは似ていない。美子が髪型や表情の作り方や話し方まで何から何まで私の真似をしても、かけ離れている。

赤の他人だというのに、双子の皮を被るなど、まずかったのだ。少しでも、良心たった一つで付き合ってあげようと思った私が馬鹿だったのだ。

私の腹の底で虫たちがむしゃむしゃと『ぶす』という言葉を食いちぎる。

すっかり軽くなった最近の言葉も私の中ではまだまだ重さを持っている。

主観だけで動くのは私には似合わない。美子は客観視などしたこともない性分だからわからないだろうけど。

私はついに美子に潰されそうだ。

美子に引っ張られて美子を超えてどこか違う場所に行ってしまうのは私にとっての死だ。

 動悸がおさまってから、教室の前まで戻ると、なにやら騒がしかった。

いつもは廊下を通り過ぎる生徒たちが私の教室に群がっている。

「何があったの?」

「あ。あをいっ!大変、美子が……」

美子という言葉を聞いた途端に嫌な予感で血の気がさっと引いた。

人をかき分けて中へ入ると、クラスメイトたちが怯えて教室の隅に寄っており、真ん中でぽつんと自分の席に座った美子が目立っていた。

片方にはハサミ、もう片方には髪の毛の束。

美子の髪はすっかり耳の上でぷっつりとなくなっていた。

「……美子。なにがあったの」

意外と冷静な声が出た。こういうときこそ焦れば友達と言うのがアピールできたのにと考えてしまう私は最低だ。

「あをい。こっちおいで」

こちらを見ずに呟いた。聞いたこともない低音で、もう私でも美子でもないと思った。

静かに言う通りにする。

「耳貸して」

耳を美子の口の方向へ傾けると、真横でジョキッと刃物の思い切りのいい音がした。足元に髪の束が落ちる。

「これからはあんたが私の真似をする番だよ」