▼カナイ-似てない双子


 成人済みの男女の双子。

 それでも玲(れい)は、姉の怜(りょう)に似ていると言われる。

 それはそう変わらない身長もあるが、それ以上に玲が怜の真似をしているからだと――知っているのは多くないだろう。

 多分、俺と、俺と同じだけ二人を見ていた俺の姉達くらいではないだろうか。

 骨の浮いた指は袖のフリルで。筋の浮かぶ太腿はスカートとニーハイで隠して、女を装う。

 女形と呼ばれる、男が女を装う立ち居地と、ヴィジュアル系と呼ばれる界隈と、そうして玲の努力でそれは実を成している。

「なぁ」

「んー?」

 かき混ぜていたクリームの乗ったココアから顔を上げて、玲は首を傾げた。

 どちらかと言えば中性的な顔立ちは、それでも年を経るごとに男らしさが滲んできている。

 季節を問わず手放さないニット帽の下、限界まで脱色して白銀になった髪がさらりと揺れた。

 待ち合わせをしているコーヒーショップ、怜は大学の講義が長引いたらしくまだ来ない。

 陽光の中にいる玲に覚える違和感は、もっと強いライトの下にいるのを見慣れたから。

「いつまでそれ、続けんの」

「……何が」

「……いや、女形?」

 怜に似せるの、と言えなかったのは、俺の臆病が理由。

 それは伶一(れいいち)もでしょ、と久し振りにあだ名ではなく本名を呼んで、玲は笑う。

 年相応の、そうして性質相応の軽薄な笑い方。怜といる時よりは男らしいそれに、溜息は内心で。

「いや俺は生涯女形だから。まぁお前が女形辞めたら怜にスカート履かせてステージにあげる」

「うーん……超見たいけど、他の男の目に触れンのは嫌だなぁ」

「シスコンめ」

「シスコン上等。ねぇちゃんに悪いムシ付くよりはよっぽどマシですー」

 頬を膨らませたのは一瞬、玲は笑って伸ばしている襟足を後ろに流した。

 着ている服が姉の物だからか――幼馴染のこの双子は、よく互いの服を貸し借りしている――傍目に性別は分かり辛い。

 姉と同じ髪型で、姉を慕う。それを微笑ましいという人は少なくない。

 本人もそれをネタにして、シスコンキャラで通っているところもある。

 ――でも、俺は知っている。

 揃いは嫌だと言い出したのが、玲だということも。

 一時は怜と間違われないように、髪を短く刈り込んでいたことも。

 中一の夏、俺には未だ理解できない田舎と血縁の呪いじみた事案で怜が壊れた日に、全て変わってしまった何か。

 短かった髪は、姉と同じ長さに保たれるようになった。年相応に雑だった仕草は、細やかさを得た。

 元々厭うていたスカートを、上京してから一切履かなくなった怜。

 そんな姉に代わり、衣装としてそういったものを好むようになった玲。

 大分見慣れた今の襟足を伸ばした髪型だって、最初にしたのが怜だということを考えると暗鬱とした気分になる。

 そこには、二人が壊れていくのをただ見ているしかできなかった後悔があるのだろう。

 苦いそれを砂糖を入れたカフェオレで流し込んでも、ざらりと、未だ舌の上に残る苦さ。

「お待たせ」

「ねぇちゃん、大学お疲れー」

 そのタイミングでトレイを盛ってきた怜に、玲が破顔する。

 荷物を寄せて奥に詰めれば、並ぶ白と黒。

 限界まで髪の色を抜いた玲と、一度も髪を染めていない怜。

 玲の私服に比べれば落ち着いた服も黒が多いから、怜は影のようにも見える。

 そんな対照的な出で立ちの中、顔にはまだ共通点が見つけられる。

 それに玲が仕草を似せるから、余計に際立つのだろう。

 ぼんやり眺めていれば、視線に気付いた怜が真っ向から俺を見る。

「どうしたの、伶一」

「……いや、スッピンで並ぶとお前等本当似てねぇなって」

 口にしたのは些細な願い。それに、怜はカラコンを入れていない目を瞬かせた。

 それから隣の弟を眺めて、また視線を戻して。

「当たり前じゃない」

 それこそ明日の天気でも告げるように、淡々と告げた。

「私はこの子みたいに上手く歌えない」

 何を今更、というような言葉に、沈黙は一瞬。

 揃って固まった俺と玲で、先に言葉を紡いだのは玲だった。

「そだね、俺もねぇちゃんみたいにギターは弾けないや」

 柔らかい笑顔は怜に寄せたものとも、年の離れた弟に向けるものとも違っている。

 それに、あぁ、と落ちたのは――安堵。

 ……少しずつ、少しずつ、この二人に掛けられていた呪いは薄れてきていたのだと、そう思いたかった。

 怜が玲を歌わせる為に、ギターを選んだその日から。

「というか、伶一とお姉ちゃん達が似てるんだと思う」

「分かるー」

「おいやめろ、俺を巻き込むな」

 予想しなかった切り替えしに本気で返せば、くすくす、音の違う笑い声。

 煙草でやけた怜の声と、性別の割に少し高い玲の声。

 ――近いが、似ていないそれら。

 あぁなんだ、と思う。似ているとずっと思っていたのは、俺の色眼鏡もあったのかもしれない、と。

 ステージの中央と上手。白いボーカルと黒いギタリスト。

 二人で一つではなく、寄り添いながらも個々の道を歩いていた――疾うに。

 瞼の裏、区別の付かなかった二人に息を一つ。瞼を開ける。

 対面の白と黒。対照的な二人に、もう一つ、さっきよりは苦くない息を吐き出した。

「……嗚呼、本当似てねぇよ、お前等」